競馬は投資になりうるのか検証してみた: 二年間全レース買って馬券収支がプラスだった事例から。

写真は、おなじみ中山競馬場のパドック。たぶん、愛馬レットイットライドの最後のレースです。

ギャンブルほかに関する簡単なアンケートにご協力ください。

それはさておき、2005年から06年の古い資料について分析してみました。

馬券自慢の男性が2005~06年の二年間、海外旅行などで日本を離れた時期以外の週末(全96週)に開催されたJRA全レースで馬券を購入した上で(ほんの少しの)プラス収支を記録したという、一般の人にはピンとこないかもしれませんが 競馬をやる人なら分かる本当に驚異的な記録です。

この記録が、馬券購入が投資として成り立ちうるのかを考える上で参考となるかもしれないと考え、限られた資料から改めて分析を試みました。

当時彼が用いたのは、他の人がちゃんと分析しないデータを統計的手法を用いて格付することで、ファイナンスで言うところのα(アルファ)をとるという戦略です。アルファとは、市場で投資する際に、投資対象固有の特性によって市場平均(ベンチマーク)を上回る収益率を得ることを可能にする源泉を言います。

彼が実際に分析の対象としたのは、レースの当週、前週、前々週の調教時計データでした。調教の情報は普通の競馬ファンも見る部分ですが、統計的手法まで用いて分析している人はまずいません。トラックマンの調教評価等は主観でガチガチなので、まったく参考にしなかったそうです。

馬券スタイルは、シンプルで返戻率の良い単複中心です。二年間で単勝万馬券を3~4回当てたらしく、かなりの穴党だったようです。ちなみに万馬券とは、的中100円あたり1万円以上の払い戻しがある(すなわちオッズが100倍以上の)当たり馬券のことです。

一つ目の図は月ごとの収益率の推移です。青棒が月次収益率、赤点が月間の週次収益率の平均をプロットしたものです。

二年間を通した収益率は約2%、回収率で言うと102%です。単複中心の収益率の市場平均がマイナス20%程度ということを考えると、プラス収支というのは実に驚くべきパフォーマンスと言えます。

馬券なんて買ってないで、どこかのファンドの運用責任者として普通の金融商品に投資してベンチマーク+20%くらいのパフォーマンスを出していれば、それなりの報酬がもらえるような気がします。

そのくらい凄いことなんですが、この方の問題は、全レース買いにも関わらず月ごとの浮き沈みがすごく大きい点なんですよね。穴党なのでしょうがないと言えばそうなんですが。

なので、二年間全レース買いでプラス収支というのが、本当に彼の実力ゆえだったのか、いま一歩分析を進めてみました。

■収益率の確率分布とシミュレーション

二つ目の図は週次収益率の分布です。収益率の平均は-5%(回収率95%)、標準偏差は102%です。偏りが大きく、大雑把に言って、分布に3つの山が見られます。(毎週同額を投入する均等買いの場合の)単純平均で回収率95%というのは素晴らしいパフォーマンスです。

以下では、彼が実際に記録した96週分の週次収益率の確率分布を所与のものとして、試行回数10万回のシミュレーションを行っています。

まず 均等買いした場合の月次収益率の分布です。4週分を一か月として計算しています。右側に大きなファットテールが見られる、きれいに歪んだ分布になりました。いかにも穴党らしい感じです。

月次収益率がプラスとなる確率は39%です。

次に、均等買いした場合の年次収益率の分布です。ここでは50週分を一年として計算しています。抽出数が増えたことで分散が効き、月次では右側にあった大きなファットテールがはっきりとは見られません。週次収益率の平均である-5%を中心に、左右にほぼ対称な釣鐘型の分布になりました。

年次収益率がプラスとなる確率は35%です。

年次ベースの実際の収益率2%に対し、シミュレーションによって得られた収益率の標準偏差が51%と高いため

、このレベルではまだまだ投資としては成り立ちません。標準偏差は投資のリスクの尺度になります。

■資本をどう配分するかが重要

最後の図はシミュレーション結果ではありません。実際の24か月分の月次収益率と、各月の週次収益率の平均との差をとって、グラフ化したものです。

週次収益率の単純平均-5%に対し実際の収益率が2%となったのは、

  • 、週ごとやレースごとの資金配分を変えることで収益率を高めることができたからでしょう。この図は、その点を検証するための資料として作成しました。

    資金配分をランダムに設定した場合、月次収益率と週次収益率の平均のどちらが高くなるかは半々です。

    そこで、確率50%で発生する事象が24回中4回だけという状況がどのくらいの確率で発生するか計算してみたところ、たったの0.0772%でした。1000回トライしても出現するかどうかというレベルです。彼の資金配分の意思決定が収益率を高めたのは間違いないでしょう。

    であれば、ドン・キホーテが風車に挑むような全レース買いみたいな買い方を止め、買い材料がはっきりしないレースは買わずに メリハリをつけて馬券購入することで、新たなアルファを見つけずとも、収益性を改善させる余地がありそうです。

    彼のように市場参加者の多くが見逃しているアルファを見出し、その上で買い目やレースを合理的に絞り込むことができれば、馬券購入というギャンブルを投資にまで昇華させることができるかもしれません。

    ■まとめ

    ・ 馬券自慢の彼は、調教時計データにアルファを見出したことで、ベンチマークを上回る平均収益率を実現できました。
    ・ 彼はまた、資金をうまく配分することで収益率をさらに高めました。
    ・ 一般的な投資と同様に、アルファの発見と資金の配分が鍵です。
    ・ 馬券市場は金融市場ほど効率的ではない分、アルファを見出すことは、

    、比較的簡単かもしれません。
    ・ 統計的手法を高度化し、合理的に取捨選択できれば、馬券購入が投資の域に至る可能性はありそうです。
    ・ 馬券も投資も「自己責任」が基本です。

    なお、この馬券自慢の彼は、週末の全レース買いのために毎週末睡眠一日3時間未満の生活を丸二年続けたことで、精神的に疲れ切って、その後はほとんど馬券を購入していないそうです。

    やっぱり無理は続かないものですね。